▲ 新製当時の5186F。 地上駅時代の鳩ヶ谷駅にて。
いつの時代も、通勤ラッシュに混雑はつきものです。大量の乗客が一挙に押し寄せ、乗降の遅れが遅延を生み、その遅延がより一層混雑に拍車をかける…乗客にとっても鉄道会社にとっても地獄のような時間帯です。
このような朝ラッシュの混雑の緩和は、昔から様々な方法で行われてきました。中でも最も単純かつ簡単な方法といえば列車の増発が挙げられ、列車のさらなる増発を行うために上下線の線路を2本ずつにする複々線化も各私鉄や国鉄で行われてきました。しかし、それでもなお混雑が治らない路線や、様々な事情で複々線化が難しい路線では、実にトリッキーな方法で混雑対策が行われていきます。小田急や営団東西線(当時)は1枚当たりのドアの大きさを広げたワイドドア車両を作り、京阪や京王、JR、営団日比谷線、そして東急では、1両あたりのドアの数を増やした多扉車が製造されていきました。
1991年、複々線化工事真っ只中、通勤ラッシュの混雑がピークに達した帝北にも、ラッシュ特化型の今までにない車両が誕生します。それが5000系15次車、約20年にわたって製造され続けた5000系の最終増備車です。混雑の緩和のため、この車両は1車両あたりのドア枚数を5枚とした多扉車となりました。扉を多くすることで、途中駅での乗車時間、ターミナル駅である日暮里・帝北上野での降車時間の短縮を図ったのです。20m車体の多扉車は6扉を採用することが多いですが、帝北では着席需要や採光面積とのバランスを考えた結果、一つドアが少ない5扉車としたようです。とはいえさすがに10両編成全てを5扉車にするのは気が引けたのか、この5扉車は全て4両編成で製造されました。6両+4両で上り列車を運転する時に4両は上野側に来ますが、帝北上野駅の改札口は上野側先頭車の近くにあるので、4両のほうがより効果が高いと判断されたのです。
5000系15次車は5184F〜5187Fの4両編成×4本、合計16両が製造され、通称5700系と呼ばれました。製造当時の運用は、朝ラッシュピーク帯に上野へ向かう運用に就き、朝ラッシュが過ぎると春日部などで切り離され、日中は4扉の4両編成や2両編成と組んで主に各駅停車の運用に使用されました。多扉の効果は大きかったようで、朝ラッシュ時の日暮里駅での乗降にかかる時間が4扉車と比べて7秒ほど短縮されていたそうです。たかが7秒、かもしれませんが、ラッシュ時の遅延回避には大きな役割を果たしました。
▲ 新たに6両編成となった5420F。 笹久保にて。
一方で、運用に入れる上で問題も浮き彫りになってきました。まず座席数が少ないこと。着席需要とのバランスを考えて6扉ではなく5扉としたこの車両ですが、それでも4扉車より座席数が少ないのは当たり前のことであって、特に日中などの閑散時間帯では敬遠される傾向にあったようです。
整列乗車を乱す点も大きな問題となりました。ただでさえ混沌とした朝ラッシュのプラットホームに唯一与えられている乗車列という秩序、それが5扉車によって乱され、乗客が戸惑うばかりではなく、時には横入りなどのトラブルの原因にさえなったそうです。また、1994年から2005年にかけて田端新町〜武蔵戸塚間の高架複々線が完成、さらに東京や有楽町などにダイレクトでアクセスできる地下鉄湾岸線との直通開始もあり、混雑は多扉車導入当初よりは改善されつつあったため、何かと評判の悪い5扉車の運用は徐々に削減されていきました。最盛期には予備車なしで4運用、うち3運用は終日動くような運用でしたが、運用消滅直前のダイヤでは朝のみ動く1運用のみに削減されていました。その傍ら、5扉車は4両という編成の短さもあり朝から晩まで遊園線を往復する運用に就くことが多くなりました。
同じような境遇にあった京王6000系の5扉車は改造によって4扉になりましたが、帝北の5扉車はステンレス製、4扉にする大改造など出来ず、ついに2000年の江北〜鳩ヶ谷間複々線完成に伴うダイヤ改正で5扉車の上野乗り入れ運用はほぼ消滅してしまいました。運用開始から10年足らずで、5扉車は本来の目的であるラッシュ時の運用から退いたのです。
運用から外れた5扉車は4両編成3本を6両編成2本に組成し直し、6両編成は笹久保常駐となって武州線内往復の各停に限定されて運用されています。普通の4扉の6両編成と混じって運用されますが、他の編成は特定の編成が武州線内に封じ込めになることを防ぐため、時々武州大崎で交換が行われて堤根の車庫から来た編成と入れ替えされるのに対し、5扉車は堤根に行くことはなくずっと武州線内封じ込めとなっています。現在6〜7運用ある武州線内往復の各駅停車運用ですが、5扉車の運用はランダムで、運用に就かない日もあります。
残る4両編成1本はワンマン化改造やラッピングを施され遊園線専用車として運用されています。この編成が検査入場をする際は他の4両編成が運用に就きます。
華々しいデビューからもうすぐ20年、スカートこそ設置されたものの5000系の中で唯一リニューアルも行われなかった5扉の16両は、現役バリバリで活躍する4扉の同系列車を尻目に、今日も静かに活躍しています。